令和3年度の法改正による電子帳簿等保存制度5つの見直し要件

令和3年度の法改正による電子帳簿等保存制度5つの見直し要件

政府は平成10年より帳簿書類の電子保存を容認する「電子帳簿保存法」を創設しました。この法律は、紙媒体での保存が義務とされていた国税関係の書類のデータ保存を認めるものです。制定以来時代のニーズに合わせて何度も法改正が行われてきました。令和3年度には電子取引の利用促進やテレワークの促進を目的とし法改正が行われ、令和4年1月から施行される予定です。

今回の法改正では、帳簿書類を電子保存する際の手続きが根本的に見直されています。経理が電子化され業務の効率化を可能にし、バックオフィス業務に関わる人件費の削減が見込めるでしょう。企業が本来力を入れたい部署への採用促進や、人材育成に注力できるようになります。
今回は日本の働き方改革の追い風となる、電子帳簿保存法の改正内容について解説します。

目次

電子帳簿保存法とは

改正に至った背景

電子帳簿保存法での保存区分

電子帳簿保存法で認められている電子保存が可能な書類の例

電子帳簿保存法の変更点

税務署長による事前承認制度の廃止

タイムスタンプの使用制限が緩和 

検索条件の緩和

適正事務処理要件の廃止

電子取引データの保存における見直し

帳簿を電子化するメリット

不正時にはペナルティが課せられる

まとめ

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法とは、平成10年7月に制定された法律です。この法律は大きく分けて以下の2つが定められています。

  • 簿書類を電子データで保存可能にすること
  • 授受した取引情報の保存義務

制定当時より、各税関係帳簿書類の全部または一部について電子データでの保存が認められていました。しかし、時間のかかる承認プロセスやタイムスタンプなどの手続きがネックとなり、帳簿の電子データ管理は浸透しませんでした。この法律は経理の電子化による生産性の向上や時代の変化に合わせて何度も改正が行われており、平成17年3月に一部改正されています。令和4年1月には改正案が施行され、帳簿類の電子データでの保存の要件が大きく緩和されます。

改正に至った背景

電子帳簿保存法が制定されて以来、ほとんどの企業が紙媒体電子化に大きく踏み出せない傾向にありました。以前までの電子帳簿保存法で決められていたデータ保存方法は、時間のかかる承認手続きや要件が多かったためです。電子帳簿保存制度の電子帳簿保存とスキャナ保存の手続きを行い、承認を受けている企業は令和2年3月時点で約27万件です。現在日本には約360万の企業が存在していることを考慮すると、電子化を進めている企業が極端に少ないことがわかります。
この現状を打破するべく、日本全体で令和4年1月から施行される法改正で、大幅に制度が見直され手続きや条件が緩和されました。これにより以前と比べて帳簿や紙媒体の電子化が容易になるでしょう。

電子帳簿保存法での保存区分

電子帳簿の保存区分は以下の3つに分けられています。

  • 電磁的記録での保存方法
  • スキャナ保存
  • 電子取引データ
電磁的記録はパソコンで作成したデータを保存する方法です。DVDやHDなどのメディアでの保存以外に、クラウドサービスの利用も認められます。スキャン保存は書類をスキャンして電子データに変換したものを保存する方法です。スキャナ保存には懸念点があります。それは紙の書類を改ざんし、データが書き換えられる可能性です。そのためスキャン保存は、タイムスタンプの付与といった一定の要件を満たすことで保存が認められます。電子取引データとは、請求書や領収等を電子データで受領する書類や明細です。クラウドサービスを利用している場合でも、データを改ざんできない仕様であれば、承認やタイムスタンプなしで保存できます。

電子帳簿保存法で認められている電子保存が可能な書類の例

下記の2つの書類は電磁的記録での保存が可能です。

  • 国税関係帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳)
  • 国税関係書類の内決算関係書類にあたるもの(貸借対照表・損益計算書)
スキャナ保存が可能な書類は、国税関係書類のうち取引関係書類にあたるもの(契約書・請求書・発注書・領収書)です。
さらに、国税関係帳簿は重要な書類となるため、以下の要件を満たすことが求められています。

真実性の確保

記録事項の訂正・削除を行なった場合の事実内容を確認できること

通常の業務処理期間を経過した後の入力履歴を確認できること

電子化した帳簿の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できること

システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル)を備え付けること

可視性の確保

保存場所に、プログラム、電子計算機、ディスプレイ、プリンタおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、記録事項を画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できること

取引年月日、勘定科目、取引金額そのほかのその帳簿の種類に応じた主要な記録事項により検索できること

日時又は金額の範囲指定により検索できること

2つ以上の任意の記録事項を組み合わせた条件により検索できること

電子帳簿保存法の変更点

電子帳簿保存法は前述したように時代の流れにそって何度か改正が行われています。

具体的に今回の改正では、以前と比べてどのように改正されたのでしょうか。5つの項目に分けてご説明します。

税務署長による事前承認制度の廃止

以前までは電磁的記録・スキャナ保存・COM保存のいずれにおいても承認が必要でした。

承認をもらうには、税務署に申請書の届け出をする必要があります。申請書は、導入を希望する3ヶ月前までに提出しなければなりません。この手続きが時間と手間がかかるため電子データ保存の導入を考えている企業にとって、大きな足かせとなっていました。

今回の改正では、この承認制度が廃止されます。改正以前のような承認にかかっていた時間や手間が削減され、スムーズな電子保存化が実現可能です。

タイムスタンプの使用制限が緩和 

タイムスタンプとは、電子データの改ざんを防ぐシステムです。タイムスタンプを付与することで、電子データが存在していたことおよび改ざんされていないことが証明できます。以前はスキャナ保存と電子取引において、タイムスタンプの付与期間は「3日以内」でした。
今回の改正で「2か月とおおむね7営業日以内」に延長されたので担当者業務に余裕が生まれます。
電子帳簿保存法が定めた管理をしている場合は、受領者側のタイムスタンプが不要です。また、スキャナ保存に限り以前まで必要だった国税関係書類への自署が不要とされます。更にクラウドなどで保存や修正、変更日時の確認できる場合は、これをタイムスタンプの代わりとすることが出来るようになりました。このように今回の改正で、タイムスタンプの付与は絶対条件ではなくなりました。

検索条件の緩和

以前は、帳簿の種類に応じた記録項目を検索できる状態のデータで保存するという要件が定められていました。具体的にいうと、記録項目とは勘定科目や取引年月日、取引金額です。つまり、日付または金額を範囲指定しての検索や、2つ以上の記録項目を組み合わせた形で検索できる必要があったのです。
改正後の記録項目は取引年月日、取引金額、取引先と3つに限定されます。また、税務職員によるデータダウンロードの要請に応じる場合には、範囲指定や複数の項目を組み合わせた検索機能の確保も不要です。少しでも多くの企業が電子帳簿保存法へ対応できるよう、以前のような手間や煩雑な管理を簡素化した内容へと変化しています。

適正事務処理要件の廃止

適正事務処理要件とは、相互けん制・定期的なチェック・社内規定整備です。今回の法改正で適正事務処理要件が廃止されます。以前はデータ保存前の紙書類の改ざんを防止する目的で、いくつかの項目が定められていました。具体的に言うと相互けん制として、互いが関連する各事務について別の者が行う体制が必要でした。また、1年に1回以上の定期チェックおよび再発防止策といった社内規定を整備する必要がありました。さらに、改ざんが行われていないことを証明するために、電子データの元となる紙媒体を保存しておく必要がありました。
今回の法改正では、企業側にとって電子化に踏み込めない要因だった厳しい内部管理の要件が廃止されました。それによって、原本はデータ保存後すぐに処理することが可能になりました。

電子取引データの保存における見直し

注文書や領収書といった取引情報はデータでの保存は電子的記録、もしくは書面のいずれかで行う必要がありました。しかし、法改正により電子取引データの書面での保存が廃止となり、紙に出力しての保存は認められなくなります。電子取引データは定められた保存場所で定められた期間保存しなければなりません。また、明瞭な状態のデータを納税地で出力できる必要があります。これらが可能であれば保存場所はクラウド上でも認められます。電子データの取り扱いに必要な措置は以下の4つです。

①タイムスタンプが付された後に取引情報の授受を行う
②取引情報の授受後は速やかにタイムスタンプを付し、保存者か監督者の情報を記載する
③訂正・削除の履歴が確認でき、改ざんできないシステムで保存する
④訂正・削除の防止に関する事後処理規定を定め運用する

電子取引データは法令に則した形で保存する必要があります。保存の要件は以下の3つです。
①モニタ画面・書類へ速やかに出力できるようにする
②電子計算機処理システムの概要書を添付する
③取引年月日、取引金額、取引先での検索および日付または金額の範囲指定検索、2つ以上の記録項目を複合した検索が可能である

帳簿を電子化するメリット

帳簿を電子化するメリットは以下の通りです。

・経理、精算業務の人件費削減
・計算、転記ミスなどのヒューマンエラーの防止
・保管、管理業務の軽減
・テレワークの実現による経営の効率化
・セキュリティの向上、強化

改正前の電子帳簿保存制度は、働き方改革促進を妨げていると言われていました。この制度に従うことで、紙という現物がある場所でしか仕事ができなくなってしまうのです。そのため、長年にわたってバックオフィス業務は業務効率化やシステム化の課題解決が実現できていません。コロナ禍の影響で急速に広がるテレワーク、リモート勤務に対応できない企業が今も多く存在しています。しかし、今回の法改正はバックオフィス業務の働き方改革の追い風となるでしょう。社会全体の働き方改革促進につながることが期待されます。

不正時にはペナルティが課せられる

今回の法改正で大幅に要件が緩和されるため、多くの企業で電子データ保存が導入されるでしょう。データ化の導入がしやすくなるため、不正防止の対策として重加算税の加重措置が定められています。スキャナ保存されている国税関係書類の電磁的記録に関して不正や隠ぺいがあった場合は、その事実に関し生じた申告漏れに対し10%の重加算税が加重されます。

まとめ

電子帳簿保存法についてご理解いただけたでしょうか。改正案の試行は令和4年1月です。すでに経理や会計関係の業務のシステム導入を検討している場合は、電子帳簿保存法の改正に対応しているかどうか確認しましょう。せっかくコストや時間をかけてシステム化するのであれば、法改正後も長く活用できるシステムの導入をするべきでしょう。
今回の法改正は、社会のペーパーレス化や働き方改革に大きな影響を与えます。業務上のコスト削減や生産性向上のために積極的に電子化を進めましょう。今回の法改正を機に今のうちから電子データの導入を検討してはいかがでしょうか。

HR-GET編集部

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