【2022年1月1日施行】65歳以上の兼業・副業者への雇用保険 マルチジョブホルダー制度 徹底解説!

【2022年1月1日施行】65歳以上の兼業・副業者への雇用保険 マルチジョブホルダー制度 徹底解説!

2020年3月に雇用保険法等の一部を改正する法律が成立し、2022年1月からは複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者について本人の申出に基づき、雇用保険の高年齢被保険者になること(雇用保険マルチジョブホルダー制度という)ができるようになります。

こうした動きのなかで、今回は雇用保険法の改正をテーマに、働く意欲と能力を持つシニア人材のさらなる活躍促進に向けた、65歳以上の兼業・副業者の雇用保険特例加入について解説します。

65歳以上の兼業・副業者への雇用保険適用に至るまでの背景

高年齢者の兼業、副業や70歳までの就業の確保を促進している背景には少子高齢化・人口減少により、社会を支える働き手となる労働人口が減り続けている現状があります。

総務省統計局の集計では、我が国の2020年9月の総人口は、前年に比べ29万人減少している一方、65歳以上の高齢者人口は、3617万人と、前年(3587万人)に比べ30万人増加し、過去最多となりました。総人口に占める割合は28.7%と、前年(28.4%)に比べ0.3ポイント上昇し、過去最高となりました。

そして、2019年の高齢者の就業者数は、2004年以降、16年連続で前年に比べ増加し、892万人と過去最多となっています。

また、2020年3月の高年齢者雇用安定法の改正により、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置(定年引上げ、継続雇用制度の導入、定年廃止、労使で同意した上での雇用以外の措置、継続的に業務委託契約する制度、社会貢献活動に継続的に従事できる制度)の導入のいずれかを講ずることが企業の努力義務となりました。

こちらは2021年4月1日から施行されているもので70歳までの就業を確保するよう、企業に努力義務を求め、高齢者の活躍を促進するものとなっています。

65歳以上の兼業・副業者への雇用保険適用の概要

具体例をもとに、まず、現状を確認しておきましょう。

年齢にかかわらず雇用保険の被保険者となるためには次の2つの要件を満たす必要があります。その中で、65歳以上の被保険者は「高年齢被保険者」となります。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  2.  31日以上引き続き雇用されることが見込まれること

 以下、具体例です。

【複数事業所勤務のケース①】 SR太郎さん

事業所A =週・所定20時間
事業所B =週・所定10時間 
⇒SR太郎さんは事業所Aで雇用保険被保険者となります。

【複数事業所勤務のケース②】 SR花子さん

事業所C =週・所定20時間
事業所D =週・所定20時間
 ⇒SR花子さんはCかDいずれか、「主たる賃金を受けている事業所」一か所のみで雇用保険被保険者となります。

【複数事業所勤務のケース③】 SR次郎さん

事業所E =週・所定16時間
事業所F =週・所定10時間
 ⇒SR次郎さんはEとFの1週間の所定労働時間を「合計すれば」26時間になりますが、E社とF社ごとではいずれも要件を満たしていないため、どちらの会社においても、雇用保険被保険者にはなれません。

 では、2022年1月1日から施行される「65歳以上の兼業・副業者への雇用保険適用」(以下、「雇用保険マルチジョブホルダー制度」)とはどのようなものなのでしょうか。

上記のケース③を、65歳以上の兼業・副業者と仮定し、この特例が適用されたものとします。

【複数事業所勤務のケース③-a】 SR三郎さん =65歳以上、「本人からの申出」あり

事業所E =週・所定16時間
事業所F =週・所定10時間
 ⇒EとFの「各々の所定労働時間 20時間未満」かつ、「1週間の所定労働時間の合計(20時間以上)」ですので、2022年1月1日以降、申出をすることによりSR三郎さんはE社とF社双方で雇用保険被保険者となります。この場合、「二重加入」の状態になります。

  「雇用保険マルチジョブホルダー制度」の要件は以下の通り

次に掲げる要件のいずれにも該当する者が、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に申し出た場合には、高年齢被保険者となることができるものとすることとされています。

  1.  二以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること。
  2.  二つの事業主の適用事業(申出を行う労働者の1週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間数(5時間以上20時間未満)であるものに限る。)における1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること。
  3.   二つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

 尚、事業主は、労働者がこの申出をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。

引き続き、「SR三郎さんが、どちらか一方の会社を退職した場合」を見てみます。

 【複数事業所勤務のケース③-b どちらか一方を退職した時】 SR三郎さん 65歳以上

事業所E =週・所定16時間  ⇒ こちらを退職
事業所F =週・所定10時間
結果、事業所Fのみに勤務している状態です。
 ⇒ ①所定労働時間が週10時間(20時間未満となる)⇒雇用保険被保険者ではなくなり、以後保険料は徴収されません。
⇒ ②失業給付については、事業所Eで支払われていた賃金額を基礎として給付されます。

 要件を満たさなくなった日に資格を喪失しますので、特に事業所Fにおいては注意が必要です。続いて具体的な手続きについて解説します。

 65歳以上の兼業・副業者への雇用保険資格取得・喪失の手続き

手続きにあたり注意すべき点として、労働者本人からの申し出により手続きを行うこととされており、要件を満たせば即被保険者となるわけではありません。

資格取得手続きは労働者本人が希望するときに行います。反対に労働者本人が希望しなければ行う必要はありません。

資格喪失手続きは資格喪失原因に当てはまった場合に手続きします。

 資格取得手続き

労働者本人の雇用契約において1週間の所定労働時間が一つの会社につき厚生労働省令で定める時間(5時間以上20時間)未満の会社の1週間の所定労働時間を合算して20時間以上となったときは労働者本人が住所又は居所を管轄するハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出します。事業主は、本人からの依頼に基づき、手続きに必要な証明(雇用の事実や所定労働時間など)を行います。

なお、加入後の取り扱いは通常の雇用保険の被保険者と同様で、任意脱退はできません。

 資格喪失手続き

労働者本人の雇用契約において1週間の所定労働時間が一つの会社につき厚生労働省令で定める時間(5時間以上20時間)未満や退職して、合算した1週間の所定労働時間が20時間未満となったときは労働者本人が住所又は居所を管轄するハローワークに雇用保険被保険者資格喪失届を提出します。

今後増加する65歳以上のマルチジョブホルダーの働き方

WHOが発表した2021年の男女平均の健康寿命は74.1歳と日本は世界的にもトップレベルの長寿国です。今後ますます定年後や継続雇用制度の期間を過ぎた65歳以上の労働者が増加することが想定されます。

また、65歳以上の雇用は非正規雇用が大半を占めており、マルチジョブホルダー(兼業者)としての働き方が多様化することが想定されます。

雇用保険は労働者の生活や雇用の安定を図る制度です。等しく加入の機会を得られるよう取り組んでいくことが求められているのではないでしょうか。

筆者紹介

社会保険労務士法人 HALZ(https://halz.co.jp/

「外部人事部」をコンセプトに幅広い人事領域をサポートする社労士法人です。企業人事の実務経験、社労士として数々の企業様への労務コンサル経験をもとに、実務家目線に立ち企業様をサポート。給与計算や手続きを通じ把握した労務課題への改善提案、さらに採用支援や人事制度の導入提案も手掛け、企業人事の皆様を幅広く支援します。

記事検索

ページの先頭へ