70歳までの雇用に関する、人事制度の在り方。シニア世代の有効活用とは

70歳までの雇用に関する、人事制度の在り方。シニア世代の有効活用とは

 改正高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業機会を確保することを努力義務としています。わが国では少子高齢化が進み、将来的には労働力不足も深刻になり、65歳を超えた人にも依存する社会が現実となってきます。

そこで今回は、70歳までの雇用を見据えた人事制度の考え方、シニア世代の有効活用についてまとめました。

目次

  1. 高年者が活き活きと働ける仕組み作り
  2. 社員全体の意識啓発
  3. 制度設計の考え方
  4. シニア活用のメリット
  5. まとめ

高齢者が活き活きと働ける仕組み作り

・やりがいある仕事、役割を提供

高齢者は知識・経験・技術・技能を持っているため、長年培った経験から先を見る力があります。高齢者に活き活きと働いてもらうためには、この強みを活かせる役割に就いてもらうことで、就業意欲も高まります。

・負荷のかからない職場環境作り

高齢者の強みを活かすには、起こりがちな弱みを補うことが大切です。
体力低下には機械化や自動化など、視力低下もデジタル化や拡大表示で補うことができます。通勤負担を軽減するための在宅勤務や時差出勤、直行直帰も有効な手段の1つです。集中力低下にはセンサーによる自動化を、作業スピードの低下には作業スピードをコントロールできる方法を取り入れることができます。

・多様性のある働き方を用意

複数の働き方が多様化するのも高齢者の特徴です。
フルタイム以外の選択肢を提供する場合、単にパートとしての働き方を提供するのではなく、午前中だけの勤務や午後だけの勤務、 週前半の勤務や週後半の勤務など、勤務形態の種類を充実させると効果的です。
高齢者の中には、早朝や夜間勤務を希望する高齢者もいるため、様々な勤務シフトを用意して選択できるようにすることも可能です。
多様な勤務形態は、育児中の社員が高齢者に業務を引き継いで、退社時間を早めることができる等、働き方改革に繋がります。

・みんなが納得する基準を明確に制度化

継続雇用となった高齢者の人事考課が行われないままで、処遇も一律ということになると、就業意欲の向上を妨げてしまうおそれがあります。
このようなことを防ぐために、仕事ぶりに応じた処遇が必要であり、貢献度を見える化することで、評価している企業もあります。
これらの仕組みは全員が対象となるよう、就業規則に明確に記載するなど、運用でカバーするのではなく、制度化することで公平制が増し、納得して働くことができるようになります。

社員全体の意識啓発

・高齢者に意識転換を促す重要性

高齢者雇用では、企業が真剣に取組むだけでは効果に限界があります。高齢者自身が意識転換することが何よりも重要となります。
高齢期は、体力や健康などの自身の変化のほか、会社・職場から求められる役割も変わってきます。自分の立ち位置の変化に気づき、その時に役割を果たせるよう、事前準備が必要となります。

・高齢者が受け入れられるような職場作り

高齢者と若手では価値観が違うこともあり、心理的距離が遠くなりがちです。それを防ぐために、会社や管理職がきっかけや仕掛けを作って距離を縮め、相互理解が進むようにすると良いでしょう。
業務効率化を図るためにタブレットを導入した会社の中には、若手がベテランに使用方法を教えているところもあります。教わるだけだった若手が教えるという立場を経験し、ベテランの苦労を知るだけではなく、ベテランにとっても若手の強みを理解することができ、ともに距離が近くなったということもあります。
調査によると、高齢者と仕事をした経験がある若手・中堅は、高齢者に対する評価が高いという結果もでています。

制度設計の考え方

高齢者の社員に戦力として活躍してもらうためには、「何を期待しているのか」をしっかり伝え、その「仕事ぶりを適切に評価し賃金を支払う」ことが不可欠となります。
各企業に合った最適な賃金・評価制度の作成に至るまでの流れは以下の通りとなります。

① 「どのように活躍してもらうのか」を明確化

高齢者の社員に期待する「業務内容や責任の程度」、「働き方」の2つの視点で考えていきます。

②雇用制度の検討

定年制度延長や定年制度の廃止、継続雇用制度から、活用方針に対応した制度を検討します。

③賃金・評価制度の整備

採用した雇用制度に対応した制度を検討します。

シニア活用のメリット

①経験や技術が豊富で即戦力になり、人材育成のコスト削減につながる

自社の定年退職者の場合、育成コストはゼロでそのまま同じ仕事をしてもらうことができます。

②ノウハウを共有することで、若手の育成や成長につながる

経験に基づいた知識を活用し、若手の育成・指導をしてもらうことができます。

③労働体制や評価を柔軟にすることで会社の多様化につながる

年齢に関係なく、個人の能力や成果を基準に処遇していくことができれば、将来的に会社の多様性を高めることにつながります。

まとめ

少子高齢化が進んで労働人口が減少する今、働く意欲と能力のある高齢者の積極的活用は必要不可欠といえるでしょう。高齢者の雇用の在り方、賃金設計など、新しい時代に適した仕組みを制度化していくことが求められます。
また、若手社員の中には、高齢者雇用の拡大は自分の給与が上がらない原因と受け取り、不満の原因になることもあります。
このような現実を踏まえ、最適な制度構築と運用を考えていきましょう。

筆者紹介

社会保険労務士法人 HALZ(https://halz.co.jp/

「外部人事部」をコンセプトに幅広い人事領域をサポートする社労士法人です。企業人事の実務経験、社労士として数々の企業様への労務コンサル経験をもとに、実務家目線に立ち企業様をサポート。給与計算や手続きを通じ把握した労務課題への改善提案、さらに採用支援や人事制度の導入提案も手掛け、企業人事の皆様を幅広く支援します。

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