人事評価制度を導入したものの、いざ評価をすると自己評価と上長評価に食い違いが発生して困っている。こんな悩みはないでしょうか? 多くの中小企業を支援してきた弊社にもこうした悩みはよく寄せられます。
そこで今回は、なぜ評価が食い違うのか、それを防ぐ方法やコツをご紹介していきます。是非ご参考にしてください。
<目次>
評価が食い違うことによる弊害
なぜ評価が食い違うのか?
評価の食い違いを防ぐ3つの行動
まとめ
評価が食い違うことによる弊害
評価を受ける人の「評価が低すぎる不満」と評価者の「スタッフの自己評価が高すぎる不満」という真逆の不満は、よく聞かれる話です。
こうした真逆の不満、いわゆる評価の食い違いが生じ続ければ、スタッフのモチベーションは下がり、不安と不満が渦巻く雰囲気となってしまうでしょう。こうした環境下では、人事評価制度に対する不信感を募らせる人が増え、それが離職に繋がることさえあります。
仮に離職という最悪の事態を免れたとしても、不信感を募らせ続けた人事評価制度は、近い将来風化し使われなくなります。
こうした事態を避けるためにも、評価の食い違いを防がなければなりません。その解決策を考える前に、そもそも評価が食い違う理由から把握していきましょう。
評価が食い違う理由は、大きく分けて2つあります。
1つ目は基準が不明確であること、2つ目は納得感への投資が不十分であることです。
一つひとつ確認していきましょう。
①基準が不明確
人が人を評価する人事評価制度では、どうしても主観が入ってしまいます。そして、主観的な評価になればなるほど、評価がばらつきやすくなります。では、なぜ主観的な評価になってしまうのでしょうか。それは、基準の不明確さが原因です。
何をどの基準で評価すればいいのかが曖昧であればあるほど、自分の感覚やこれまでの経験で評価をせざるを得なくなります。そして、この価値観や経験は人によってバラバラです。
つまり、自分軸に頼って評価をしないようにするためには、評価の基準を明確にする必要があるのです。あなたの会社では、何が評価され、何が評価されないのか、どのレベルまでやれば評価されるのかといった基準は明確になっているでしょうか?
②納得感への投資が不十分
2つ目の理由は、納得感への投資が不十分であるということです。たとえどんなに明確な基準をつくったとしても、基準の捉え方を間違ったり、事実に対して誤った認識を持っていては評価の食い違いが発生してしまいます。
ジョハリの窓という考え方にもあるように、自分では気づかない自分というものが存在します。これを本人に認識させるには、時間をかけて理解を促していく必要があります。
しかし、この投資が不十分の場合があります。そうなると、スタッフと上司の間で相互理解が進まず、スタッフは上司がなんでそんな評価をするのかが分からないと不満の声をあげることになります。
評価者は、スタッフ本人が気づいていない事実を伝え、根気強く本人に気づいてもらうことに力を注ぐ必要があるのです。これが納得感につながります。あなたは、スタッフにあなたから見たスタッフの事実について、じっくりと、我慢強く伝え続けることをしているでしょうか?
※ジョハリの窓とは※
自分が知っている「自分の特徴」、他人が知っている「自分の特徴」の一致・不一致を『窓のように見える4つの枠』に分類するフレームワーク(手法)です。また、そのズレを一致させていくことで他人とのコミュニケーションを円滑にできると考えられています。
<4つの枠>
「開放の窓」 自分も他人も知っている自己
「盲点の窓」 自分は気がついていないが、他人は知っている自己
「秘密の窓」 自分は知っているが、他人は気づいていない自己
「未知の窓」 誰からもまだ知られていない自己
評価の食い違いを防ぐ3つの行動
ここまで、評価が食い違う2つの理由について考えてきました。
ここからは、その2つを考慮し、私たちがするべきことを考えていきましょう。
①評価基準を明確にする
基準が不明確による評価の食い違いを防ぐために、できることが2つあります。
1つ目は「評価基準を明確にする」こと、2つ目は「達成基準を明確にする」ことです。
ここでは1つ目の「評価基準」について考えていきます。人事評価制度は経営者の最大の意思表示です。どんな人を評価し、どんな人を評価しないのか、これを明確にしたものです。経営者の頭の中を可視化したツールとも言えるでしょう。
だからこそ、どんな成果を出せば評価されるのか、どんな能力を身に着け、どんな仕事ができたら昇格できるのか、など徹底的に経営者の想いを具体的に可視化していきましょう。
②達成基準を明確にする
続いて、基準が不明確による評価の食い違いを防ぐための2つ目について、考えていきましょう。
そもそも、基準が明確な状態とは、「何が評価されて、どのレベルまで求められているのか」が一目瞭然な状態です。
「何が評価されるのか」については、①の評価基準です。
そして「どのレベルまで求められるのか」という指標が達成基準です。達成基準の例として、まずは売上について考えてみましょう。
すごく頑張ったと評価される数字はいくらで、期待通りだと評価される数字はいくらなのか、もう少し頑張ろうという評価になる額は?と決めること、これが達成基準です。
これは数値目標以外でも可能です。例えばマニュアルづくり。月に2本つくることが期待通り、月4本であれば期待を超えている、月1本であれば期待までもう少し、といったように設定することができます。
どんな内容でも工夫次第で達成基準をつくることができるのです。この達成基準づくりには時間がかかるかもしれません。
スタッフとその基準について相互理解を深め、合意を得ることは骨を折る作業になるかもしれません。それでも、具体的な基準がなければ食い違いが防げないことも事実です。是非、基準の明確化に取り組んでみてください。
③コミュニケーションの量を増やす
たとえ評価基準が明確だったとしても、先に述べたように自分では気づいていない事実があることがあります。
しかし、スタッフを思って自分の考えを伝えても伝わらなかったり、受け入れてもらえなかったという経験を誰もが一度はしているのではないでしょうか。こうした悩みは、多くの経営者やマネジャーを苦しめています。
ここであえて、スタッフの立場になって考えてみましょう。評価のタイミングでいきなり面談されて、できていないところを指摘される、それで素直に受け入れろと言われても、なかなか心がついていかないというのが本音ではないでしょうか。
これが、毎月定期的な面談があって、そこで少しでも自分の修正点に触れられていれば、自然とその内容を受け入れていけると思います。
定期的な面談を通じて、少しずつ改善を促していく。本人も普段あまり話していない人に指摘されるのではなく、常に見てもらっている人の指摘だから受け入れやすい。こう考えると、コミュニケーションの量を増やすことで、本人をより良い方向に導くことができると思いませんか?どうやったら自分の意見を分からせることができるかと考えるのではなく、まずは相手の立場に立って、相手の味方になってコミュニケーションの量を増やしてみてはいかがでしょうか?
まとめ
本日は、なぜ評価が食い違うのか? ということをテーマにポイントをご紹介しました。
評価の食い違いは、人事評価制度の運用にとっても、スタッフの気持ちにとっても重要な課題です。
それにも関わらず、多くの企業で評価の食い違いが起こり続けています。
よく経営は人・物・金・情報と言われますが、この中で人への投資が後回しになってしまっていると感じる企業が多いと聞きます。
つまり、多くの企業で人への投資を怠り、その結果、評価に対する不満が増えている、と考えることができるのではないでしょうか。
ここでの投資とは、スタッフにかける時間や労力も含みます。評価が食い違うという事象は、氷山の本の一角にすぎず、むしろそれを引き起こす在り方を疑うべきなのかもしれません。スタッフと何をどのレベルで求めているのかをしっかりと共有する、評価について納得いくまで話し合う、その時間と労力を惜しまないことが重要なのではないでしょうか。
評価の食い違いを無くし、人事評価制度をうまく機能させるためにも、人への投資に対する考え方を一度見つめ直してみると、新たな発見があるかもしれません。
本日は以上となります。ご一読いただきましてありがとうございました。
<作者紹介>
株式会社ブレインマークス 今泉 勇太
コンサルティングサークル所属。中小企業の成長に必要な「人事評価・給与制度」、「経営計画の策定支援」「業績管理の仕組み化」「組織力向上による業績向上」を得意としている。多くの社長から「会社のことを真剣に考えてくれる右腕が一人増えた!」と評価が高い。
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